「会社のことをAIに覚えさせたら便利そう。でも、その中身は誰が見られるの?」。AIの導入を考え始めた社長から、いちばん多く聞く引っかかりです。
社内の資料をAIに渡そうとすると、こんな迷いが出てきませんか。
- 入れた資料や会話が、AIの学習に使われてしまわないか
- 導入を手伝う会社の人に、社内の中身を読まれないか
- 社員の誰が、どこまで見られるのか
- やめる時に、データはどこに残るのか
この記事では、まずMicrosoft 365 Copilotがデータの扱いをどう説明しているかを、経理の資料をAIに読ませる場面で紹介します。そのうえで、会社の記憶を導入する前に確かめたい9つの問いと、当社が初めての打合せの前に用意した答えをお伝えします。
先に結論を書きます。「安全です」の一言より、誰が技術的に読めるか、何が記録に残るか、学習はどこで決まるかを先に聞く方が、判断はずっと楽になります。
Copilotは「見られる範囲」と「学習」をどう説明しているか
月末に、経理の担当者が売上や経費の資料をAIにまとめてもらう。そんな場面で考えてみます。
少し前までは、個人で契約したAIの画面に表を貼り付けて、「これ、大丈夫かな」と思いながら使う人が多かったと思います。会社として何を許していて、何がAIの会社に渡っているのか。使う人も社長も、はっきりとは分からないままでした。
Microsoftは2026年10月29日の公式ブログで、財務の仕事向けにCopilotの新しいスキルを25以上発表しました(Microsoft Copilot for Finance の発表)。同じ記事の中で、データの扱いについても説明しています。
- Copilotは、使う人それぞれが見られる内容だけを扱う
- 会社で決めてある、今の閲覧の権限を守る
- 指示・回答・文書を、土台になるAIの学習に使わない
仕事での使い方に置き換えると、社長が最初に確かめるのは「AIが何をするか」より「社内の権限がどうなっているか」になります。経理の共有フォルダを誰が開けるか。そこが正しく絞れていれば、Copilotもその範囲で動く、という考え方です。
ポイント Copilotのように、データの扱いを公式に言葉で示している道具は、社長が判断しやすい。確かめる順番は「契約の種類」と「社内の権限」から。
会社のノートをAIに足すと、同じ問いがもう一度出てくる
ここで、当社が扱っている会社の記憶の話に移ります。
会社の記憶は、会社で決まったこと・仕事のやり方・案件の経緯を、1か所のノートに残しておく仕組みです。そのノートを、MCPでAIにつなぎます。MCPは、AIが外のノートや道具を読みに行くための共通のつなぎ方のことです。つないだAIは、会話の途中で会社のノートを読み、決まったことがあれば書き足します。
便利になる一方で、惜しい所もはっきりあります。Copilotのように一つの会社が全部をまとめて説明してくれる形とは違い、AIの会社とノートの置き場が別々になるんですね。
すると、さっきと同じ問いがもう一度出てきます。誰が読めるのか。学習されるのか。やめたらどうなるのか。しかも答えは、AIの側とノートの側で分かれます。ここを混ぜて説明すると、聞く側はかえって不安になります。
初めての打合せの前に、聞かれそうな9つへ答えを用意した
10月の終わり、会社の記憶を試していただく会社との、初めての打合せが決まりました。その前に、先方から聞かれそうな問いを9つ書き出し、答えを作りました。
作り方は、仕組みの中身と本番の動きで確かめた事実、それに各AIの会社の公開情報だけを使うこと。「たぶんこうなっているはず」は入れない、と決めて進めました。
| 問い | 当社の今の答え |
|---|---|
| 中身を誰が見られるか | ノートの置き場はお客さんの会社のGitHub(非公開)。預かって運用する間は当社も持ち主として入るので、技術的には読み書きできる。お客さんを持ち主にして当社が抜ければ届かない |
| AIに学習されるか | 記憶の仕組み自体はAIを学習させない。会話が学習に使われるかは、各自のAIのプランと設定で決まる |
| 個人情報 | 会社名・人の名前は書ける。メールアドレス・電話番号・12桁以上の番号・口座番号・生年月日は道具が書き込みを断る。金額が8つ以上並ぶ明細も断る |
| 使う人の管理 | 登録したメールの人だけ。役割は「見る・書く・決める」の3段。ファイルごとに見せる人を絞れ、人ごとにすぐ止められる。人数は会社ごとに設定(既定は5人) |
| ログインの方法 | メールと8文字以上のパスワード、登録時に確認メール。AIをつなぐ時は許可の画面を通る。二段階認証とGoogleでのログインは今は無い |
| やめる時 | 置き場ごとお客さんに渡すか、当社の接続を外せば、当社からは届かない。記録はお客さんの側に残り、いつでも持ち出せる。当社側に写しは残さない |
| 書き換えの履歴 | 書き換えは全部履歴に残り、誰が書いたか分かる |
| 保存場所と、止まった時 | ノートはGitHub(米国の会社のサービス)。仕組みが止まっても、ノートはGitHubでそのまま読める。ISMSやプライバシーマークの認証は持っていない |
| 使えるAI | ClaudeとChatGPTでつながることを確認済み。ChatGPTは開発者向けのモードを使う。Claudeはパソコンで足したつなぎ先を、スマホでもそのまま使える |
表にしてみて、自分でも整理がつきました。特に「記録に残るもの・残らないもの」です。AIを通した操作は「誰が・いつ・どの道具で」まで残ります。一方で、GitHubの画面から直接開いて読んだ分は、その記録には残りません。ここは隠さず、そのまま伝えることにしました。
手を動かす前に、こうした「導入前に聞かれること」を洗い出しておくと、社内の説明もずっと短くなります。当社の業務改善のご相談でも、この確認から入ることが多いです。
いちばん迷ったのは「中身を見ますか」への答え
9つのうち、言い方を一番考えたのは最初の問いです。
「当社は中身を見ません」と言えたら、話は早いです。でも、預かって運用している間、当社は技術的に読み書きできます。できる状態のまま「見ません」と言い切るのは、約束としては弱いと考えました。
実はこの判断は、打合せの1週間ほど前、10月22日に提案書を直した時に一度決めていました。安全の説明のページで「安全です」と書くのをやめ、当社が読み書きの権限を持っていることを先に書く、という直しです。9つの答えを作る時も、同じ線を守りました。
私は以前から、こう考えています。
「AI は手段。単価は安い。安心感が持てない方が問題」
マンションの管理会社に合鍵を預ける場面に似ています。「うちは部屋に入りません」と言われるより、「鍵を持っているのはこの人で、出入りはこう記録されます。鍵はいつでも返せます」と見せてもらえる方が、預ける側は判断できますよね。
学習の設定は、打合せのその場で一緒に確かめる
調べていて、いちばん誤解されやすいと感じたのが学習の話です。
会社のノートの側は、AIを学習させません。学習に使われるかどうかを決めているのは、それぞれが使っているAIのプランと設定です。公開情報では、ClaudeもChatGPTも、個人向けのプランは設定で学習への利用をオフにでき、法人向けのプランは既定で学習に使わない、と説明されています。
個人向けのプランは、設定が「オン」のまま使っている人も少なくありません。そこで当社は、初回の打合せで、使う方のAIの設定をその場でオフにしてもらうことにしました。口で「オフにしてください」と伝えるより、画面を一緒に見ながら切り替える方が確実です。
これは会社の記憶を入れるかどうかに関係なく、今日できることです。ChatGPTなら設定のデータの項目、Claudeなら設定のプライバシーの項目に、学習への協力のスイッチがあります。社員が個人のプランで仕事に使っているなら、一度確かめておくと安心です。
導入前に聞くことと、向く会社・向かない会社
AIに会社のことを覚えさせる仕組みを比べる時、私は次の3つを先に聞くことをおすすめしています。
- 誰が技術的に読めるか。 「見ません」ではなく、「読める状態の人は誰か」を聞く
- 何が記録に残り、何が残らないか。 残らない所を正直に言ってくれるかで、相手の姿勢も分かる
- 学習はどこで決まるか。 仕組みの側なのか、AIのプランと設定なのかを分けて聞く
そのうえで、向き不向きの目安です。
会社の記憶が向く会社。 ClaudeやChatGPTなど、社員ごとに使うAIが分かれている。決まったことや経緯を、どのAIからも同じように読ませたい。置き場を自社で持ち、やめる時は持ち出せる形にしておきたい。
確認が先に要る会社。 取引の条件として、二段階認証やISMS・プライバシーマークなどの認証を必須にしている。社内のAIをMicrosoft 365 Copilotに一本化していて、その中で完結させたい。こうした場合は、Copilotの権限の仕組みの中で進める方が早いこともあります。
まとめ AIのデータの扱いは、言い切りより中身で比べる方が判断しやすいです。誰が読めるか、何が残るか、学習はどこで決まるか。この3つが答えられる道具なら、社内にも説明できます。
御社なら、どの決まりや経緯から残すのがいいか。どこまでを誰に見せるか。一緒に整理しますので、気になった時にお問い合わせから気軽に声をかけていただけたら嬉しいです!


